終章  漆黒の魔王

        - D A R K F O R C E S -   

  By.Hikaru Inoue 


III



 ゼルドパイツァーは混乱した。
 その事態が、彼を混乱させたのだ。
 ……今の苛烈王からは、以前とはまるで別人の、高貴とも呼べるオーラが溢れ出し、その高潔な光輝に圧倒された。

  ……その姿は、とても美しい。
         まさに伝説に語られた『戦天使』、そのもの。

「我らが言葉にしか知らぬその遠き過去の時代、かつて六大天魔王と呼ばれるダークフォースたちが存在した。六人の反逆の使徒、それが六大天魔王。彼らは人の身を持ちながら、人にあらず。その力は神を名乗る者、『六極神』にも匹敵したという」
 その言葉と同時に苛烈王の右手からグラムの閃光が放たれる、

  シュゥン! ギィィィィィィンッ!!!

「うおッ!!」
 その、風のように柔らかで、鉄槌の如く重い一撃が、ゼルドパイツァーのマサムネを握る両手を痺れさせる。
 しかし、以前と違ってそのマサムネには刃毀れ一つ無い。
「六大天魔王抹殺の為に神々より遣わされたのは、我が身と同じ102の戦天使。……人の心を持ち、家族や愛すべき者を持った者たち。『人間』だ」
 苛烈王の一撃は、まさに舞のようで、その立ち回りには剣を知らぬ者ですら、その美しさに魅了されるだろう。
 だが、同じ舞台に上がる者には、それと同じだけの技量が要求された。
 ゼルドパイツァーには、その舞を楽しむ余裕など微塵もない!
「102の戦天使の中には、当然、六大天魔王たちに近しい者たちも含まれた。兄弟や親友、そして愛する者、などだ。これが神々のやり口だ。六大天魔王は、身を切るような想いで、102もの戦天使と相対したのだろう。そして、六大天魔王、かつての六人の戦天使は彼らを倒した」
 そう語る苛烈王に、ゼルドパイツァーには、かつての魔王と戦ったという102の戦天使の像がダブった。
「神とは試練を御与えになるのが大好きな生き物らしい。その試練の始まりが、愛すべきその精霊人の小娘ではなく、憎むべきこの余であることを、其方は神の選択に感謝するのだな。其方にはまだ、愛すべき者たちに刃を向けるだけの覚悟は備わってはいまい」

  シュウィーン!! カァーーーーンッ!!!

「余は宣言しよう。神の御名において、其方とそこに転がる死に損ないの精霊人の小娘、それにあの栗毛の娘などを含めた其方の愛すべき者の全てをこの地より抹殺すると。それがこの余『戦天使』の使役であるのだから!! 失いたくなくば見せてみよ、魔王を名乗るものとしての意地を、奇跡を!!!」
 この言葉と同時に苛烈王の舞はより激しさを増した。
 苛烈王の挑発、
 この身よりも失うことが恐ろしい、愛すべき者のその命。
 混乱するゼルドパイツァーにも、その全てを守り抜く手段は一つしかないことはわかってた。

  目の前の敵を倒す。

 ただ、それだけということが。

「勝負は一瞬、全力をそのマサムネに賭けて、この余に挑んでくるがよいッ!!!」


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