終章  漆黒の魔王

        - D A R K F O R C E S -   

  By.Hikaru Inoue 


I



 白の世界から姿を顕したゼルドパイツァー。
 その眼光に宿る光は、明らかに以前のものとは違っていた。
 ゼルドパイツァーの突然の変化に動揺した苛烈王は、操るグラムのその動きも鈍る。
「喰らえッ!!!」

  ズウォォォォォォォォォォォォォンッ!!!

 ゼルドパイツァーのマサムネから放たれた衝撃波が、苛烈王の甲冑を切り裂き、その腕や肘に赤い線を描いた。
 攻撃そのものは浅かったが、それでも以前のゼルドパイツァーとは動きそのものが全く違う。
「くっ……、」
 苛烈王は六極神の加護によって強力に保護されたハズの己の身体が、斬撃程度によって傷付けられたことに驚きを隠せなかったが、それによりゼルドパイツァーの中で起こった変化を、文字通り、身を以て知るに至る。
「フフフッ、……そうか、そういうことか。余のお遊びが真の『魔王』を覚醒させてしまったというわけか。……なるほど、それが六大天魔王がその力を後の世に託したと言われる秘宝の一つ『斬刀・マサムネ』であったとはな。――ククッ、これで負の遺産の一つを探す手間が省けたというもの、」
 苛烈王はそう言ってニヤリと笑みを浮かべると、左手に握られたグラムをゼルドパイツァーの方へと突き出す。
「余のこの剣も、実はその秘宝の一つでな。名を『聖剣・グラム』と言う。其方とはまた別の、魔王(ダークフォース)の有格者、ウィルハルト聖剣王から奪ったものだ。……これで其方を倒せば、六つの負の驚異の内、その二つが沈黙することになる。まさか余の時代でそれを成し得るとはな。……クククッ、これも六極の神々の導きであろうか」
「笑うのはこのオレに勝ってからにしなッ!!」

  シュン! キィンッ!!!

 そう叫んだゼルドパイツァーが二撃、三撃と凄まじい斬撃を繰り出すが、苛烈王はそれをグラムで弧を描くように軽く受け流すと、刹那、ゼルドパイツァーの脇腹の辺りを抉るようにグラムの一撃を加えた。

  ザクッ……。

「ぐはっ!!!」
 血の色に滲む脇腹を抱え込んで片膝を折るゼルドパイツァー。
 苛烈王はその姿を尊大な態度で見下ろすと、嘲るようにこう言った。
「クククッ、余を甘くみぬことだな。……其方が魔王の力に目覚めたのであれば、確かにその力には六極の神々の加護の力などは及ばぬかも知れぬ。だが、魔王の力とは本来、卓越した剣技、技量、そして絶大なる『負』に耐え得る強靭な精神力を持つ者にのみ許されるもの。どんな名刀も、その使い手の腕が稚拙ではただの刀と変わりがないようにな。ウィルハルト聖剣王のような剣神とも呼べる達人であれば、余と互角に渡り合うことも出来ようが。フフフッ、小僧。……其方の剣では余の足元にも及ばぬ。小細工など使わずとも、其方などこの左手一本だけで血祭りにあげてくれるわッ!!!」


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