終章  漆黒の魔王

        - D A R K F O R C E S -   

  By.Hikaru Inoue 


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 この世に『滅び』ぬモノがないように、
 世界が『不変』であろうハズもない。

  ― 希望 ―

 人々に光を与えてくれる言葉。
 その言葉は、時に『天使』という二文字で代用された。

  ― 天使 ―

 それはとても暖かい存在。
 例えば、それはある人にとっては愛する人であり、我が子でもある。
 その人にとっての『天使』が何であるかに関わらず、
 天使とは人に生きる希望と意味を与えてくれる存在である。

 では、万人にとっての『天使』とは何か?
 柔らかき光に輝き、背中に羽の生えた、神話やお伽話の存在。
 その存在は架空のモノでしかない。
 いわゆる、人が自らに希望を与えるために生み出した存在に他ならない。
 少なくとも、この『エグラート』と呼ばれる銀河の片隅の、狭い世界の中では。

 そして、中にはその妄想を利用する者たちもいる。

  ― 六極神 ―

 自らを『神』と呼称する存在、集団。
 彼らは人という種よりも僅かに秀でていた為、いや狡賢かった為に、
 奇跡の力を我がモノとし、人々を、小さな世界を、自分たちの箱庭と変えてしまった。
 言葉で説明も出来ないようなことが、この世の中には幾つも存在する。
 でなければ、世界はその自らの両手を開いた程度の物差しで計れてしまうほどの、
 実にちっぽけな存在へと成り下がってしまう。
 未知の無い未来に、その価値など幾分も無いように。

 だからこそ彼らは世界の数々の『未知』を独占し、
 まるでパンのかけらを動物にでも与えるように、
 天使という背中に翼を持つバケモノを、
 あたかもそれが人々にとっての『希望』であるかのように、時折、自分たちに信仰心を失いかけた人々の前にちらつかせた。

 どんな大国同士の争いでも、
 その渦中に一度、純白の翼を持つ柔らかき光に包まれた美しき天使が舞い降りれば、
 人々は戦意を失い、その光り輝く希望に救いを求める。
 それで救われるのは何も戦場で戦う兵士たちだけとは限らない、
 その人の帰りを心より願う者、
 恋人、そして母親。
 この、まさに奇跡とも呼べる神の業に、感謝という感情を抱かない者など、戦争の当事者で、その戦いで勝利を目前としていたごく一部の支配階級の人間たちでしかない。
 無限に思われる刻を生きてゆく神々と呼ばれるものたちにとって、
 一部の人間の反抗など、
 まさに『まばたき』ほどの時間でしかない。
 不変の意志を持ち続け、それを受け継いでいくことすら出来ない者たちが、神々の驚異などに成り得るハズもない。
 彼らはこの世の条理に従い、いずれは流され、消えてゆく。
 消えないものなど、それは彼ら『神々を名乗るモノ』たちにとって、自己の存在とこの世界そのもの以外になど有り得ない。

 有り得ないハズであった。

  ― 不変 ―

 もし、本当に世の中が不変の定理で存在しているのであれば、
 それが例え例外的な、ごく一部な者たちを指し示す言葉であったとしても、
 すでに世界は停滞しているといっても過言ではないだろう。
 一部の者たちに握られた、箱庭の如きちっぽけな世界などに、未来など有り得ようハズもない。
 そう、彼らが不変で有り続ける為には、自身が停滞する必要があった。
 でなければ、自らも他の人間たちと同じように、時の流れという、何者にも変えることの出来ないであろうその波に、呑まれ、消えゆくのみである。

 しかし、『人』は初めから花を付け、永遠にその花として咲き続けようとするモノなどに、はたしていつまでも関心を持ち続けていられるであろうか?
 答えは自ずと見えてくるハズである。
 故に美しき花もやがては枯れ、やがて実を付ける新たなる息吹にその役目を引き継がれるのである。

 いわば、彼ら『六極神』は、枯れずに咲き続けようとする、醜い毒花のようなモノであった。

 しかし、不変であるハズの彼らの、その御使いである『天使』が、
 今や希望の象徴ではなく、『恐怖』を振り撒く存在としてこの地に舞い降りた以上、
 不変のルールも、徐々にその形態を変え始めているといえる。

  『神々の時代も、今やその黄昏を迎えようとしていた』

 ただし、革命には血が伴うように、
 その血の色の髪と目をした一人の美しき女性は、
 その変化への人柱となろうとしていた。

 彼女は間違いなくこう望んでいたハズである。
「神が翼と奇跡を与えてくれるのなら、私はその光で人々を癒したかった。そして、その愛すべき人々に、自身も癒されたい」のだと、


  ― こうして、反逆は幕を開けた ―




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