第六章  灰の大地の冬

        - D A R K F O R C E S -   

  By.Hikaru Inoue 


VIII



「フフフッ、ここで死ねることを感謝するのだな。……後の世は、余の治世よりさらに苛烈で残酷ぞ。アスラフィルは躊躇うことなく六極の神々の為、生け贄という名の虐殺を繰り返すだろう。人の憎悪を一身に集め、小娘の演じる魔王などより、遥かに強烈な存在として、人間どもの目には映ることだろう。……皮肉なものだな、その末に人は六極の神々に救いを求めるのだから」
 苛烈王はそう言い終えると、左手のグラムに暗黒の覇気を宿らせる。
 ……グラムの白金の剣身が、ゆっくりと闇色に塗装されてゆく。
「これから世界がどうなるかというのを知って死に行くのも悪くはあるまい。――それとも、実力でこの余を倒してみるか? 小娘よ」

  シュウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ!

 『魔剣・破皇斬ッ!!』

 苛烈王はグラムに宿した闇の力を、セリカに向かって放った!!!
 苛烈王は利き腕である右を使おうとはしない、
 利き腕でないせいか、苛烈王の剣を振る速度がその魔力の質量によって鈍っても見えるが、放たれた一撃は喰らえば必死の暗黒剣だった。

  ズガガガガァァァァァァァァァァンッ!!!

 次の瞬間、闇の神ヴァルスの第二等魔神魔法を宿した必殺剣が、肉厚の石畳を突き破って、階下に三階分ほど風穴を開けた!
 想像を絶する破壊力をセリカは素早く床を転がってかわすと、立ち上がりざまに渾身の魔法力を込めた戦斧を苛烈王目掛けて投げ付けたッ!!
 刃を破壊された巨大戦斧だが、その先端には鋭い槍先が閃光を放っている!!!

  ボアアァァァァァァァァァァァァァッ!

 セリカの一撃は、確かに露になった苛烈王の胸元に命中した。
 だが!!
 ……苛烈王に触れたとたん、巨大戦斧は鉄色の煙を上げながら粉々になって消え去った。
「どうしてッ!?」
 消滅した巨大戦斧に驚きを禁じ得ないセリカに向かって、苛烈王が高笑いをしながらこう言った。
「フハハハハッ、無駄だ。……余は言ったではないか、この世界の全ては六極の神々によって支配されているのだと。神々の加護という名の支配を受ける『魔法力』を帯びた世界のあらゆる物体は、六極の神々には一切抗うこと出来ぬように仕組まれている。それが、其方らが余に勝ち得ぬ最大の理由だ。余はその神々の加護を、この地上で最も強く受ける神々の使徒ぞッ。この二つの翼が余と天空の神々を繋ぐ今、余は神々に最も近き存在として、この世界に存在する。いわば、神の『肉体』なのだ。ククッ、……フハハハハッ!!」
 その自信が苛烈王に隙を生じさせたのを、後背のゼルドパイツァーは見逃しはしなかった。
 ゼルドパイツァーはマサムネの波紋に銀光を宿らせ、苛烈王の背中に鋼の閃光を打ち出す!!

  カアァァァァァァァァァァァンッ!!!

 がッ!!
 ゼルドパイツァーがマサムネを振り下ろすよりも先に、その身を翻す苛烈王の左手からグラムが飛び出してきた!
 激しい火花を上げて二つの剣が衝突するが、細身のマサムネは肉厚のグラムの前に、あっさりと打ち折れてしまう。

  カランッ、カランッ……。

 ……高い金属音を上げながら、マサムネの折れた刃先が虚しく床を撃って転がった。
「おい、ウソだろッ!!! 伝説の剣じゃなかったのかッ!?」
「クククッ、不意打ちが二度も通用するほど、余は愚かではないぞ。最も、今の一撃が決まったとて、其方の技量ではこの身に傷一つ付けることも出来ぬであろうがな」
 苛烈王のグラムがまた、先程と同じ暗黒の覇気に包まれる。

  シュウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ!

「其方ではこれをかわしきれまいッ! 『魔剣・破皇斬ッ!!』」
 まるで無限の魔力の許容量を持つかのように、苛烈王は強力無比の暗黒剣を立て続けに二度も放った。――術名を叫ぶのは、その魔法の最短の詠唱法である。苛烈王は第一等以下全ての六極神魔法をこの術名だけで発動させることが出来る!!
 たとえそれが慣れぬ左手から放たれた暗黒剣とはいえ、それはゼルドパイツァーにかわせる速度ではなかった。

 まさに神速、その一撃がゼルドパイツァーを襲う!!!


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