第四章  大いなる意志

        - D A R K F O R C E S -   

  By.Hikaru Inoue 


II



 月に一度は、火竜山のフレアロードの元へと顔を出すセリカだったが、今日はそれにゼルドパイツァーだけでなく、リカディも同伴することになった。
 ――それには事前に、こういう経緯がある……。
「やはり、伝説の竜王は実在していたのかッ!! ――魔王殿、是非この妾を竜王の元へ連れていってくれッ、竜王の叡知を授かることが出来れば、魔法剣士冥利につきるというもの。頼むッ!」
 アクアマリンの瞳を輝かせ、セリカに寄り縋って頼み込むリカディ。……そのあまりの情熱と勢いに、セリカは押し切られるように、首を縦に振ることになる。
「は、はぁ……別に構いませんが、――期待しないで下さいね。フレアロード様も、もうお年ですから、」
「有り難い、感謝するぞ魔王殿ッ!!」
 ――その時、セリカには、落胆するリカディの姿が目に浮かぶようだったという。

 こうして、一行はあの洞穴へと辿り着いたのだった。
「セリカちゅわ〜ん、L・O・V・E……ラブリィ〜〜セリカッ!! 儂、待ちに待ち焦がれておったんよぉ〜〜っ!!」
 今日の干柿じじいは、紋付袴に赤い鼻緒の草履という出で立ちだった。
 この暇じじい、セリカが尋ねて来る度に、迷惑にも趣向を凝らした様々なファッションを披露してくるのだった。
 ……ちなみに前回はアロハシャツにヤシの実をあしらった奇妙なちょんまげ姿だった。そして、洞穴の内装の方も南国バージョンに改装されている凝りようだ。
 人の想像の域を越えた、絶大なる魔力の無駄遣いである。
 ……そう思うと、今回もあの洞穴に入ることが少し不安になるゼルドパイツァーだった。
「干柿じじいめ、……暇だけは人一倍持て余しているようだな」
「魔王殿、少しよろしいか……」
 リカディはこっそり耳打ちでもするように、セリカに山のふもとの洞穴の前で立つ、この奇妙な老人のことを尋ねた。
 するとセリカから返ってきたその答えに、リカディは愕然としてこう叫んだ。
「こ、このご老体が伝説の竜王ッ!!」
「ほほーぉ、今回は黒髪の美少女ちゃんも一緒じゃのーっ。気のきいた貢ぎ物なら、これは大歓迎じゃぞい!」
 茫然として虚空を見上げるリカディに、その日の陽射しは容赦無く眩しかった。
「ああっ、空が…何処までも白い……」
 ……このまま日射病にでもなって倒れてしまった方が、よっぽどマシというものかも知れない。
 期待に無い胸を膨らませて、昨日の夜もろくに眠れなかったおぼこ娘のリカディには、それはあまりに酷な試練であった……。

 洞穴の中はゼルドパイツァーの予想通り、じじいの和服姿に合わせるように和室へと模様替えがなされていた。
 ――部屋に合わせて服を変えるのならまだしも、服に合わせて部屋を変えるこの根性に、圧倒される思いのゼルドパイツァーだった。
「暇人パワー炸裂だな。ヒマ人、恐るべし……」
 部屋には、何処から持ってきたのか六畳分の畳が敷き詰めてあり、室内には微かな藺草の香りが漂っている。その部屋の中央には簡素な囲炉裏が作ってあって、そこでお茶を沸かす寸法だ。
 ――囲炉裏端を囲む座布団が二枚なのは、きっとゼルドパイツァーに対する当て付けなのだろう。
「ささ、セリカちゃん、ここに。そして、そこの黒髪の美少女ちゃんは、儂の座布団を使いなさい」
 今ここに、月に一度のじじい主催による、奇妙な合コン(お茶飲み会)がその幕を開けた。
 趣のある室内に、個性的な美女二人。
 干柿じじいもゼルドパイツァーも、互いを見つめ合うと、一心にこう願うのだった。

 『お前がいなけりゃ最高なのに』、と……。


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