第三章  誇り

        - D A R K F O R C E S -   

  By.Hikaru Inoue 


III



 食堂でその日のディナーを楽しむセリカとゼルドパイツァー。
 辺りを夕闇が包む時刻になっても、落日の恩恵を西の窓から受ける室内は、まだ十分な光量で満たされている。
 テーブルに並んだ色とりどりの料理を、テーブルマナーという言葉には程遠い下品な食べ方で、ゼルドパイツァーは次々に平らげていた。
 ――その様相は、まるで腹を空かせた山賊そのものである。
「いやぁ、美味いっスねぇ! カローラちゃんの料理もさる事ながら、セリカさんと一緒のディナーはまさに格別っスよ」
「そんなに喜んでもらえるなら、食事ぐらいいつでも付き合いますよ」
 セリカがそう言ってスープを口に運ぶと、まさに絶妙なタイミングでワニが水を差してきた。

「魔王サマ」

「ま、また貴様かぁぁぁぁあああッ!」
 邪魔なワニの出現に声を荒げるゼルドパイツァーだったが、いつもの調子でワニはゼルドパイツァーを無視すると、淡々と話の先を続けた。
「森ノ入リ口近クニ、人間、大勢集マッテ来テル。確カ、ソコニハ、カリア村アル。マタ人間、戦争始メル気カモ知レナイ」
「……そうですか、カリアの村に人間達が」

  パリィーーーーンッ!!

 突然、ガラスの割れたような音が室内に鳴り響いた!
 セリカ達がその音の方へと振り返ると、慌てて落としたグラスの破片を片付けるカローラの姿があった。
 複数のグラスの破片は石畳の床の四方に飛び散っており、顔を青くしたカローラは床を這い回るようにその破片を探していた。
「すいません、セリカ様、……すいません」
 カローラは深々と頭を下げて、セリカにそのことを詫びる。
 ――セリカはカローラの方へと近寄って、一緒にその破片を探し始めると優しくこう言った。
「いいのよ、カローラ。それより、手を怪我しないように気を付けて」
 そのエメラルドグリーンの瞳にいっぱいの涙を蓄えたカローラ。――桜の花弁のような淡いピンクの唇を何かに怯えるように震わせ、カローラはセリカにこう訴える!!
「セリカ様、お願いします! カリアの村の人達を助けてあげて下さい」
「カローラ……」
 セリカはカローラの肩を抱き寄せると、その髪を優しく撫でてやった。
「あなたは本当に、優しい子なのですね。――あなたに……、あんな酷い事をした人達なのに」
「でも、カリアは……、私の故郷だもの。あの時みたいな恐い思いを、みんなにさせたくないの」
 カローラはそのまま、セリカの胸に顔を埋めて泣き崩れた。





 ――ゼルドパイツァーはこの時、カローラにかける言葉もなく、ただ遠巻きにその姿を見守るしかなかった。

 ……カローラの口にした『あの時』という言葉に様々な想いを巡らせながら。


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