第三章  誇り

        - D A R K F O R C E S -   

  By.Hikaru Inoue 


II



「ロケットコブシ発射ァーーッ!!」 
 ゼルドパイツァーは、その指先で精魂込めて作り上げた人形に向かって絶叫した。
 何処ぞのヒーローロボットアニメに出てきそうな格好を思わせる粘土の人形は、ピクリとも動こうともしない。
「出んではないかぁ! どうしたぁ、オレのラブリィ魔神号Zよぉ!」
「ゴーレムですから……、粘土ですから……、ロケットはちょっと……」
 興奮気味のゼルドパイツァーを宥めるようにセリカは言った。
「それにまだ、魂を吹き込んでないんですからっ 」
 するとセリカは人差し指を立てウインクして見せると、ゴーレムの作り方やその蘊蓄(うんちく)を得々とゼルドパイツァーに語り始める。

 ――それによると先程の粘土の人形は、まず焼き物と同様に窯で焼くのだが、その前に二、三日、晴れた日に天日干しにするのがいいらしい。
 後はセリカ特製の魔法の上薬を塗って焼き上げると、一応外側だけは完成するという。
「ここからが大変で、良質の土の中に埋めるんです。鉄やら銅やらが混ざった土地だとより堅く強く成長するんですよ」
 つまり、種蒔きの要領で焼き物を地面に埋めると、一週間ぐらいで巨大化したゴーレムが大地から這い出してくるのだ、とセリカはそう言って丁寧に、にこやかにゼルドパイツァーに説明してやった。
「こうやって沢山ゴーレムを作って、私の魂の一部を吹き込むんですよ。そうすれば、無駄にみんなの命を失わずにすむでしょ」
「魂を吹き込むって、もしかしてセリカさんの……」
 ゼルドパイツァーはこの時、セリカの慈愛に満ちた笑顔の中にこう悟った。
 ――セリカはゴーレムを作るたびに、その命を少しづつ彼らに分け与えているのだと。
 なのにセリカの笑顔には少しも、自らを犠牲にしているのだという感じがなかった。
「いいんですよ、私ってすごく長生きですから。……普段から人々に、魔物や怪物などと蔑まれている森や山々に暮らす者たちも、一生懸命に生きているんです。だから私は人間達とのくだらない戦争の度に、彼らを戦場に駆り立てるような真似はしたくはありません。――ゴーレムだったら、壊されてもいくらでも作れますから」
 この時、セリカの上に重くのしかかる漆黒の魔王という重荷を、ゼルドパイツァーは数瞬、垣間見た思いがした。

「オレはイヤだぜッ!!!」

 そう叫んだゼルドパイツァーは、机上に置かれた五個の人形全てを勢い良くはね退ける!!

  グシャ……。

 硬い石畳の床に力強く叩きつけられた粘土の人形たちは、鈍い音を立てて潰れる。
「ゼルドパイツァーさん……」
 あまりに突然のことに、ただ呆然とゼルドパイツァーの方を見上げるセリカ。
 ゼルドパイツァーは、そのセリカを見つめて寂しげに表情を曇らせた。
「ゴーレムなんぞ無くったって、セリカさんに向かってくる勇者きどりの馬鹿どもは、このオレが片っ端から叩き潰す。……たとえ相手が百人だろうが、千人だろうが」
「うふっ、そんなこと言うと本当に頼りにしますからね、ゼルドパイツァーさん 」
 セリカは、やや興奮気味のゼルドパイツァーを安心させるようにそう言って微笑んだ。
 ――それはややぎこちないものであったが。
 そのセリカの想いに応えるように、ゼルドパイツァーは得意げに胸をトンッ、と叩いてみせる。
「この男、ゼルドパイツァー。頼りにして下さいよ、セリカさんッ!!」


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