第三章  誇り

        - D A R K F O R C E S -   

  By.Hikaru Inoue 


I



  ぺったん……。
  ぺったん……ぺったん……。

 ある晴れた日の午後。
 ゼルドパイツァーは古城の一角にある一室から、そんな奇妙な音が扉越しに聞こえてくるのを通り掛かりに耳にした。
 その壁と扉の雰囲気から、どうやら中は執務室のように思える。
「ん、誰かいるのか?」

  トントン!

 不審に思ったゼルドパイツァーが興味本位で扉を打ってみると、中から聞き慣れた声の返事が返ってくる。
「はい、どーぞぉー。開いてますからぁーっ」
 そのセリカの声に誘われるまま、ゼルドパイツァーが部屋へと入ると、執務室の机の上には、何やら楽しげに粘土細工に興じるセリカの姿があった。

「こ、これ、……何ですか?」
 徐に机の方へと近付くと、ゼルドパイツァーは目に飛び込んできた茶色い物体を指差し、セリカにそう尋ねた。
 机の上には、ヘンテコな形のハニワもどきが幾つか並べられている。
 ……それは爆発した芸術品とでも言うべき、恐るべきセンスの作品だった。
 ――手足の長さはバラバラで、顔は福笑い状態。およそ、へべれけのオヤジにパンチを百万発ほど打ち込んだような、そんなハチャメチャな形状のハニワだった。
「これ、ゴーレムですよ」
 セリカはそう、にこやかに答えた。

 ――ゴーレムとは、その命を吹き込んだ魔術士の意に従い戦う、いわゆる焼き物のお化けのような巨人だった。

 製作段階のせいなのか、まだ手乗りサイズ状態だ。
「ゴ、ゴーレムですか、これ」
 ゼルドパイツァーが顔を引きつらせて言ったのは、そのサイズのせいではなく、あまりに歪んでしまって哀れな姿のハニワへの同情からであった。
 確かによく見ると、以前森で追い回された焼き物のお化けによく似ている。セリカはふふふんっ 、と鼻歌を歌いながら、上機嫌で異形のハニワ作りに熱中していた。





 ……天は人に二物を与えない。それはゼルドパイツァーに、そんな言葉を実感させてくれるような光景だった。
 どんなに高名な芸術家でも、その美しさをキャンパスの上に表現するのは不可能とさえ思わせる絶世の美女の手の中から、幼稚園児が作った粘土の人形を壁に思いっきり叩きつけたような、そんなハニワが生み出されていく……。
「ふふふんふん……。あっ、そうだ! ゼルドパイツァーさんもやってみます?」
「……そうですね、やってみますか」
 ちょうど暇を持て余していたゼルドパイツァーは、そのセリカの誘いに乗ってみることにした。


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