第二章 胎動- D A R K F O R C E S -
By.Hikaru Inoue
V
「ムッカァーーーーッ! こうなったら、オレ様の真の素晴らしさというヤツを、カ・ラ・ダにイヤんっというほど教えてくれるわッ、悶絶覚悟でかかってくるがよいッ!!」
ゼルドパイツァーはそう絶叫すると、背中に背負ったブ厚い両刃剣(ブロードソード)を抜いた。
美少女剣士はその動きに合わせるように、やれやれといった感じで、見事な細工の施された細身の剣を一文字に構える。
その剣の構えは、ウィルハルト聖剣王の勇名名高い、南フォーリアの騎士の構えのものだった。
「貴様の技量では、その両刃剣の方に振り回されるのではないか。……フフッ、まあいい。妾の名はリカディ、南フォーリアの王女だ。――魔王の名を語る追剥などに名乗るほどもないがなッ」
リカディと名乗る黒髪の美少女剣士は、ゼルドパイツァーを嘲笑するようにそう言い捨てる。
負けじとゼルドパイツァーはしたり顔でこう切り返した!
「これはこれは……、その南フォーリアの王女様が、今や苛烈王の手先とは。――たかが百枚の金貨に命を張るなど、あの世で父君ウィルハルト聖剣王も嘆いておられることでしょうな」
「愚弄するかッ! 苛烈王など妾の知る所ではないわっ!!」
リカディはゼルドパイツァーの挑発に乗せられると、激怒してそう叫ぶ!!
そして、その壮舌なる戦いの舞台は、剣へと移行される……。
シュンッ!
リカディの剣風が、ゼルドパイツァーの焦茶色の髪を宙に散らした。
細身の剣を操るリカディの技量は、パンパなものではない!!
瞬きする間に、二撃、三撃と間髪入れず打ち込まれ、その閃光を弾く衝撃が、火花を散らす両刃剣を伝ってゼルドパイツァーの手を痺れさせた。
「おい、マジかよ……。あんな細身の剣が、どぉしてこんなに重てぇんだッ!」
「妾を侮った貴様の愚かさを呪うがいいッ」
シュォーーーン! カンッ!!
「しまったッ!」
リカディの細身の剣は、ゼルドパイツァーの両刃剣に弧を描くように絡み付くと、その手から両刃剣を奪い去った。
……三メートルほど飛ばされたゼルドパイツァーの両刃剣は、ザスッと鈍い音を立てその剣身を墓標のように大地へと突き立てた。
「ふふっ、チェックメイトだな」
そう言いながら口許を僅かに弛ませたリカディは、ただ呆然と立ち尽くすゼルドパイツァーの喉元に剣先をあてがった。
「すまんっ、オレが悪かった! 許してちょ」
するとゼルドパイツァーは、観念したように膝を折り、いかがわしい仮面を脱ぎ捨てその額を大地へと擦り付けると、卑屈に命乞いをした。
その光景は、プライドの塊のようなリカディの自尊心を大いに擽る。
「あははははっ、貴様のような腐れ外道にはそれがお似合いだな」
「どうか、命だけは……、ポチと呼んで下さいませ、御主人様」
ゼルドパイツァーの卑屈さが増せば増すほど、それに比例してリカディの胸は大きく反り返る。
だが、その刹那、ゼルドパイツァーの暗黒ドス黒の瞳の奥に輝くものを、慢れるリカディは見逃してしまう。
カキーンッ!
「なっ……」
ゼルドパイツァーの黒い外套の奥から突如としてその姿を現わした一振りの短剣は、リカディの右手からその細身の剣を宙へと奪い去ったのだった。