第二章 胎動- D A R K F O R C E S -
By.Hikaru Inoue
IV
静かに森へと降り立ったセリカ一行は、そこで侵入者らしき人物の影を発見した。
向こうに気付かれないように二人と一匹は、暗がりの方から侵入者の様子を窺う。
「おおぉ……、筋骨隆々のむさぁい男かと思って来て見れば、なんの美少女剣士ちゃんではないかぁ」
侵入者を見たゼルドパイツァーの第一声は、そんな嬉しい悲鳴だった。
男装こそはしているが、短く切った艶やかな黒髪は黒真珠のように美しい光沢を放ち、青白い膚に映える血のように赤い唇は、薔薇の花弁のように魅惑的。
その端正に整った顔に輝くアクアマリンの瞳が、鋭く周囲を照らしていた。
「フレアロード様の所で見せてもらった、王立劇団の花形スターのパンフみたいに、カッコいい人ですねぇ。……ああゆうの、憧れちゃうなぁ」
悪魔の形相をしたセリカが、鉄仮面の奥の瞳を輝かせて、そんなミーハーな言葉を口にした。
「ねぇ、セリカさん。ここは、オレに任せてくれません?」
ゼルドパイツァーはそう言って先陣を買って出ると、セリカは一度コクリと首肯いて、快く承諾した。
するとゼルドパイツァーは何を思ったか、鼠色をしたずた袋の中から、黒マントやら何やらを取り出すと、いかにも私は悪党ですといった扮装をしてみせる。
……それは堂に入っているというか、地でいっているというか、とにかく彼の性分にピッタリと一致したド悪党ぶりであった。
「んっ、何者かッ!」
ゼルドパイツァーはその存在を美少女剣士に精一杯アピールするかの如く、颯爽と木の上から飛び降りて見せた。
スタッ! ……グキッ。
「……フフッ、決めてやりやがったぜッ!」
その余裕の表情とは裏腹に、ゼルドパイツァーは爪先から脳天へと駆け上がる激震に必死で耐えていた。
無理もない、打ち所が悪ければ死んでしまうような高さから、彼は飛び降りて見せたのだ。
……ただ、己れの見栄。それだけの為だけに。
込み上げる痛みを腹の底から吐き出すように、ゼルドパイツァーは声を荒げてこう喚いた!
「ヌハハハハハッ! 我輩は漆黒の魔王の第一の下僕にして、色と欲と煩悩の腹黒き使者・ゼルドパイツァー様なりぃッ!」
「……お前、誰?」
ひゅるるるるるぅーーーっ……。
美少女剣士の冷やかなその言葉に、暫時、周囲は冷ややか空気と沈黙に包まれたのだった。