第一章 美しきもの- D A R K F O R C E S -
By.Hikaru Inoue
VI
食事を終え、一息ついたゼルドパイツァー。
ここは一体何処なのか? という当初の疑問を、ゼルドパイツァーは単刀直入に、ごくストレートにセリカに尋ねてみることにした。
「ここ何処?」
「そうですね、……不思議に思わない方がおかしいですね。――今日すぐにあなたを追い出すというわけにもいきませんし、食後の散歩がてら、城内を案内するとしましょうか」
そう言って、セリカはゼルドパイツァーを食堂の外へと誘った。
セリカの言った『城内』の言葉が、ゼルドパイツァーの頭の何処かに引っ掛かってはいたが、美味い朝食、食後の美女との甘い一時に、そんな疑問はあっさりと打ち消される。しかし、その次の瞬間!
「おおぉ、絶景じゃないかぁ!」
食堂を出たゼルドパイツァーの第一声は、まずそれだった。
そこは鉤型をした石畳の回廊で、眼下には淡いグリーンの密林がパノラマとなって何処までも広がっている。
淡く見えるのは空気の層のせいだ。
それはこの場所が、かなりの高台に位置しているということを意味している。
空は透明度の高い湖水のように澄み渡り、頂を目指す朝日の陽光は、淡いグリーンとスカイブルーのコントラストの中央に、朝焼け色をした黄金の線を輝かせていた。
「この回廊からの眺めは、私も大好きです。今日一日を生きる元気が沸き上がってくるような、そんな感じがしますから」
そんな中で一番輝いているのは、そう語るセリカ自身なのだとゼルドパイツァーは感じた。
セリカの絹糸のように艶やかな緑髪の繊維、一本一本を、そよ風は玩ぶように揺らす。
「ゼルドパイツァーさん、こっちです」
ゼルドパイツァーが、セリカに誘われるまま鉤型の回廊を抜けると、城の全景が明らかになった。
丘の上に聳える荘厳なる古城。
その石壁には蔓が這い、所々の崩れた場所が、長い間、この城が普請(修復)さえなされていないことを物語っている。およそ、人の住む気配のしない半廃城にも見えたが、その脇の庭園には手入れのなされた花壇の花々が彩りを添え、芝の手入れも見事だ。
そこには、かつての栄光を失った冷たい無機物の遺跡と、活力溢れるように萌える草木や花々が対照的に混在していた。
が、違和感は微塵もなかった。
古城がすでに風景と同化してしまっていることがそれなのだろう。
――およそ肥えた豚のような王侯貴族達の住む、享楽的で血腥い感じ……。絵画などには到底描かききれないその現実感が、この古城にはなかった。
「なんか、趣のある城ですね」
ゼルドパイツァーは、胸に浮かんだ感想をそう素直に述べた。
「所々、壊れててみっともないですけどね。――庭や花壇の手入れぐらいなら私とカローラで出来るんですけど、……この城もずいぶんと古くなりましたね……」
辺りを少し見回しながら、セリカはそう答えた。
そうして二人は、古城の脇に口を開ける小さな門をくぐるのだった。