第一章- 絆の花園 -
By.Hikaru Inoue
VII
フォリナー慈愛王が用意した会見の場は、城の教会の地下にある、石壁で囲まれた秘密の地下室だった。
地下室はかなり深い位置にあり、ここから外に声が漏れるようなことはない。
薄暗い階段を抜けて辿り着いた一室には、部屋の四隅に置かれた燭台に明かりが灯り、その狭い室内には法衣に身を包んだ白髭の男と、先程の側近の神官が一人、そして、その後には一人の少女が暗がりに隠れるように立っていた。
「ようこそ、お越し頂きました。私はフォリナー慈愛王。夢魔伯爵殿、どうぞ、まずは御席の方へ」
そう言って法王は、エル・ランゼに席をすすめた。
部屋の中央に置かれた豪奢なテーブルには、美しい金の細工が施されている。テーブル一つ見ても、多数の信者を抱えるこの法王の金回りは、エル・ランゼにはとても良いものに思えた。
これなら多額の金品が期待出来そうだ。
「この場所は私と、皇帝の叡知王しか知りません。いえ、貴殿で三人目ですかな」
どうもエル・ランゼはこの法王に、噂とは違う胡散臭さを感じた。それに関してはリリスも同様である。悪人の鼻は同類を嗅ぎ付けるといった感じだろうか。
そうして法王との密談は始められたのだが、それは全く予想を裏切らない内容のものだった。
ようするにエル・ランゼの選帝侯の票を金で買うといった類の話だ。
ここまではよくある話だが、ここからが違った。
「ルフィア、来なさい」
「……はい」
その法王の声に反応するように、白い衣を着せられた赤毛の少女が、暗がりから法王の傍へとやって来た。
「夢魔伯爵殿にこの娘を差し上げたい。いや、これは本日御足労頂いたほんの礼のようなものです。必要とあれば、何十でも、何百でも」
最初、エル・ランゼは法王の言葉が飲み込めなかった。魔族に捧げる生け贄だとでも法王は思っているのだろうか? しかし、法王が差し出すだけあって、その赤毛の少女は、美しい端正な顔立ちをしていた。
何と返事をしていいのかわからないまま、エル・ランゼはとりあえず一度、首肯いて見せた。
「お気に召していただけたようですね。娘はどのように扱ってもらっても構いません。新しい娘が御要望であれば、いくらでも教団で御用意させて頂きます」
法王はそう残して立ち上がると、エル・ランゼに深く一礼して、長い法衣の裾を引き摺りながら側近と共にこの場を立ち去った。
一人、この場所に残された赤毛の少女は、震える瞳でエル・ランゼを見つめている。
「……リリス、少し外してもらえないか」
「わかりました」
リリスは短くそう答えると、そのまま振り返って部屋を後にした。