第一章
      

  - 絆の花園 -

  By.Hikaru Inoue 


IV






 叙勲式を終えたエル・ランゼには、城で一番上等な部屋が用意され、その広い室内は、引っ切り無しに押し寄せる諸侯たちの膨大な進物によって、部屋中埋め尽くされようとしていた。
「熱烈歓迎ムードじゃのーぉ、リリスちゃんよーぉ。こんなに歓迎されるんなら、ディナスの下で肩身の狭いなんぞせずに、さっさと裏切れば良かったわい」
 豪奢な一室に置かれたふかふかのソファーにふんぞり返りながら、エル・ランゼはリリスにそう言い、さらにこう続ける。
「あ、あとな、こんなに土産貰ってもしゃーないから、後で暗黒騎士団の連中に適当に分けといてやってくれ。田舎へのいい土産になんだろう。リリスも気に入ったのがあったら、好きなだけ持ってっていいぞ」
「そうさせていただきます」
 リリスはそう言ってニコリと微笑んで、進物の目録作りを始めた。膨大な数の進物はリリスによって適切に分配されていく。
 エル・ランゼはその作業を見ながら、テーブルに飾られた果物へと手を延ばし、赤く熟れたリンゴをその手に掴んだ。

  ガジッ!

「むしゃむしゃ……よう、リリス。人間ってヤツらはどいつもこいつも耳が短けぇなぁ。オレ様のこのネコ耳も、ヤツらの中ではエレガントに見えるぜ、なっはっはっ!!! ガジッ……むしゃむしゃ」
「それは良かったですね、エル様」
 リリスは手を休めずに、うんうんと首を縦に振って答える。
「まあな。だいたい、ディナスの野郎もふざけたこと言いやがって。次期魔王候補の筆頭であるこのオレ様をだ、「耳が下品」だ、の一言で除外しおって。ざまあみろ、口は災いの元ってヤツだ。地獄で後悔してなってんだ」
「……根深いものがありますね、」
 リリスはそう言って苦笑った。
 実力NO・1と誰からも囁かれながら、エル・ランゼは身体的特徴をけなされて、次期魔王の座を追われたのだ。彼でなくとも、恨み言の一つも言いたくなる。だが、ここではエル・ランゼのその汚物のような酷い劣等感も、高原を吹き抜ける風のような爽やかな優越感に変わっていた。
「ぐししししっ……。なあ、リリス。オレ、街に見物に行きてぇなーっ」
「駄目です、見せ物にでもなるおつもりですか」
「おうよ、このオレ様のエレガントなネコ耳を愚民どもに見せ付けてやるのだ!! がはははははははっ!!!」
 リリスは頭を抱えながら、淡々と目録作りを進めた。
「何か言ってくれよぉ、」
「……これから、夕食会の後、帝国諸侯たちとの会見が分刻みのスケジュールで詰まっています。一週間は続きますので、覚悟しておいて下さい」
「その過密スケジュールは、まさに売れっ子アイドルってとこだな。差し詰めリリスは、仕事を身体で取って来る、敏腕美人マネージャーってとこか。今夜も眠れねぇぜ、ぐしししししっ……」
 リリスはパタッとスケジュール帳を閉じると、呆れた様子でエル・ランゼに言った。
「下品なこと言わんで下さい、これでも嫁入り前の大事な身体なんですから」
「高すぎて売れ残った、果物屋のマスクメロンってヤツだな」
「キィーーーーーッ!!」
 リリスにそう呟いて、エル・ランゼは皿の上のメロンにフォークを入れた。