第一章
      

  - 絆の花園 -

  By.Hikaru Inoue 


III






 皇城ドーラベルンは、東大陸最大の巨城で、その規模は西大陸奥地に存在すると言われる古の魔王城に匹敵すると謂れる。
 帝国の華やかな栄華を象徴するかのように天空に向かい聳え立つその巨城は、十万の兵員を余裕で収容し、その兵員を三年に渡り養うことの出来る食料を常時備蓄している。諸侯たちの滞在することの出来る貴賓室は、ゆうに三百室を超える。
 有り体に言えば、ドーム十杯分の広大なスペースの巨城。
 ……だから、城の中枢とも言えるその謁見の間もとてつもなくデカイ。
 日当たり良好。風通し抜群の快適空間の、この巨大な石畳のフロアには、夢魔伯爵の到着を今かと待ちわびる帝国の大小諸侯三百余名が、その石畳の床に敷かれた一本の赤い絨毯の脇に、似たような顔を連ねて並び立っていた。
 帝国諸侯たちが一堂に会するのは、この場が先の大同盟から数えて二度目になる。
 だが、その諸侯の中でも、その列に属さす、そこから一段高い玉座の脇に構える五人の諸侯たちがいた。
 列に連なる諸侯たちも、それなりに偉そうななりをしてはいたが、玉座の皇帝を含め、段の上の六名は雰囲気そのものが違っていた。
 彼らは俗に言う『選帝侯』であり、諸侯集合体であるこの大帝国の中核的人物であった。
 簡単に説明すると、選帝侯とは諸侯の中の諸侯であり、つまりは大王。
 帝国の現皇帝、『ノウエル叡知王』も、この選帝侯に属する。
 東大陸の支配権をケーキを切るように大きく六等分したとして、各エリアの支配者がその選帝侯であり、帝国の皇帝は彼ら選帝侯六人の選挙によって、彼らの中から選出されるのだ。
 つまり、この神聖レトレア帝国皇帝の椅子は世襲ではない。
 帝位は親から子へと譲られるものではなく、当時、最大の権力を有した選帝侯の元に譲られる事になる。
 あまり難しく考えてもらう事はなく、ただ六大王の内、一番強い大王が大大王である『皇帝』の椅子に座ると思ってもらってまず間違いない。
 これは『魔王』という外敵に対する為、常に『帝国』が強大無比であり続ける為に採用された制度である。もし帝位が親から子へと譲られるもので、その子がただのバカ盆であったなら、それこそが帝国そのものの危機となり得るのだから。

 そして、今日の日の叙勲式でエル・ランゼにその『選帝侯』号が送られ、帝国の選帝侯の椅子が一つ増えることとなった。
 現皇帝、ノウエル叡知王は老齢で老い先短い。
 と、なれば、次の帝位を巡る争いで、新選帝侯のエル・ランゼがその台風の目となるのは誰の目にも明らか。
 よって、各々の選帝侯たちはそれぞれの顔色を横目使いで伺いながら、固唾を飲んでエル・ランゼの到着を見守っていた。
「夢魔伯爵エル・ランゼ殿、只今、到着なされましたッ!!」
 こうして謁見の間の門は、ギギッと鈍い音を立てて開かれる。

 この時、徐々に帝国内部に亀裂が生じ始め、外なる戦いを終えた諸侯たちの胸の奥に、次の内なる戦いの到来を予感させた。