第一章
      

  - 絆の花園 -

  By.Hikaru Inoue 


II






「これが、人間どもの都か。綺麗やのぉー、なっ、リリス。ここもいずれはオレ様のモノになると思うと、余計に景色がよーみえるわい。空気も美味いぜ、ガハハハハッ!!」
 黒き一団の先頭に立つ馬上の黒マントの男は、振り返りぎわに大声でそう叫んだ。
「エル様、公然と野心むき出しな爆弾発言せんといて下さい、」
 すると、リリスと呼ばれた従者らしい青い髪をした美女は、顔を青くしてそう言うと、街道を埋め尽くす観衆たちににこやかに手を振って誤魔化した。
「ごますり」
「自分の尻ぐらい、自分で拭きなさいったらッ!!」
 ムッとするリリスにしたり笑うエルという名の若い黒髪の男。
 彼こそが、バルガ荒原の会戦で土壇場になって魔王軍を裏切り、その背後を急襲して人類に奇跡の勝利をもたらした、魔王の四天王の一人。
 夢魔伯爵エル・ランゼであった。
 彼の外見は魔族というより人間のそれに近く、その証拠に魔族特有の獣のような長い耳も、彼の場合、やや短い。それは彼が、魔族と人間の間の子、『ダークハーフ』であることにあった。
 より人間に近い魔族。
 その血の半分は人間のもの。
 そのことが彼、エル・ランゼに対して、人間たちが親近感を抱くことに大きく貢献していた。
 人の血が彼を魔王から離反させたのだと、城へとつながるこの街道を歓声で埋め尽くす彼らは、本気でそう信じているのだ。
 誰しも絶体絶命の危機を救われれば、悪魔でも信じたくなる。その意味でエル・ランゼは悪魔よりもまともな救い主だった言えなくもない。
「エル・ランゼ伯万歳!! 我らの勝利にッ!!!」
 群衆たちのその熱狂的な歓迎ぶりは、空気を震わせ、エル・ランゼの胸に心地よく響いていた。
「ガハハッ、愚民どもよッ!! そうしてオレ様を永遠に崇め続けるがよい!! ワッハッハッハッハッ!!!」
「エル様ッ!!」
 そうして黒き一行は、熱烈な歓迎を背に受け、皇都レトレアの中心に聳える皇城ドーラベルンへと入城を果たした。