序章   樹海の邂逅

   Written By M a k a . K a z a m i





III


「………………」
「…………な、何だっ、いくら何でも、もうやんねーぞっ!?」
差し出された食料をぺろりと平らげ、まだ物欲しげな目線を送る少女に、ノイオンは慌てて釘を差した。
「俺だって、食料の余裕なんてまるっきり無いんだからなっ!この袋の中の残存食料は俺が生き延びるのに必要不可欠な要素であるからして、倫理的にも俺のこの行為は正当であって、そうそう非難されるべき部分など欠片もなくてっ……」
「…………」
俯いて、ぐすんと鼻を鳴らし始めた少女に、ノイオンは思わず言葉を止めた。
「……分かってます。これ以上、貴方にご迷惑を掛けるわけにはいきません……」
「お、おい……」
「…最後の食事、とっても美味しかったです……わたし……生まれ変わっても、きっとあなたのこと、忘れません……」
「ち、ちょっと待ていっ!!」
憂いに満ちた哀しげな笑みを浮かべ立ち上がろうとした少女に何やら危険な物を感じ取り、ノイオンは思わず彼女を引き留めるかのように手を伸ばす。
「め、飯ならやるからっ!なっ、落ち着けってっ!!」
「いいえ、良いんです……どうせ人に迷惑を掛けるくらいしか能がないこの身、せめてこの森の生態系の一部となることで、この世界にささやかでも貢献したいと……」
「ほらっ!!」
ノイオンが慌てて袋をまさぐり、小さなパンを一切れ少女に放り投げた。少女は俯いたまま器用にそれをキャッチすると、目にも留まらぬ早さで懐にしまい込む。
「お別れの餞別、ありがとうございます……あなたほどに素晴らしいお方は見たことがありません……いいえ、きっと、来世でもそんな方に出会うことは無いでしょう……人生の最後にあなたのような方にお会いできて、わたし、嬉しいです……」
「だああああっ!! もうっ、全部くれてやらあっ!!」
ノイオンはついに、そのなけなしの食料を袋ごと少女へと投げ渡した。
少女は袋をがっちりと受けとめると、にっこりと微笑む。
「ありがとうございますっ」
「あ、ああ……」
再びぺたんと座り込んだ少女が、素晴らしい早さで袋の中身を空にしていく様を、ノイオンはただ、情けない顔をしたまま見守るしかなかった。