第三章 誇り- D A R K F O R C E S -
By.Hikaru Inoue
VI
二百を超える敵騎士団はその隊を二分し、一方の隊はリカディたちを完全に包囲、そしてもう一方の隊は、無抵抗なカリアの村人たちを襲撃した。
「魔王の手先めらがッ!」
ザシュッ! ザクッ!!
「ぐわぁぁぁぁぁああっ!!……」
「きゃあぁぁーーーーーっ!!!」
……苛烈王に対する怨念を爆発させた騎士たちの行動は、その常軌を逸していた。
たとえ相手が女、子供であろうとも、容赦なくその重い両刃剣を振り下ろし、野党まがいの殺戮劇を繰り広げた。
――ただ、彼らと野党との違いを挙げるとすれば、それは略奪行為を一切行なわない徹底した殺戮者ぶりで、それが躊躇うことなく民家に火を放たせると、村は瞬く間に兵燹(へいせん)の業火の中に没した。
「何ということを、あれではただの虐殺ではないかッ! おのれっ、この腐れ外道どもがぁッ!!」
リカディはその背後から聞こえくる村人たちの断末魔の叫びに苛立ちながらも、目の前を立ち塞ぐ騎士たちの群れに翻弄されていた。
……卓越した剣の技量を誇るリカディだったが、怒涛となって押し寄せる波状の剣撃の前に成す術なく押された。
「偉大なる六極の神々にして水の神ファリスよ、その力を妾に貸してくれッ……」
リカディは手にした細身の剣を天高くかざし、呪文の詠唱を始める。――そのリカディを守るように第十六鉄騎団の蒼き騎士たち二人が、敵騎士たちの波状攻撃の前に立ちはだかった。
「殿下、ここは我らにッ!!」
――六極神、水の神ファリスの使者にして第五等魔神ラインヴェルに命ずる……凍結の力、数万年の時さえ歪める停滞と沈黙……我が剣先が閃光となりて、迫り来る敵を打ち砕く旋風となれッ!!!
『凍結剣、絶対零度ォォォオオッ!!!』
ブオォォォォーーーーーンッ!!!
リカディの剣先から扇状に放たれた氷結の剣風が、リカディを守る二人の蒼い鉄仮面の騎士ごと、およそ三十名の敵騎士の命の炎を消し去る!!
キャリィーーーーーーーンッ!!
三十数体にも及ぶ氷の彫像は次々にバランスを失い、大地を打って砕け散った。
「……すまぬ、そなたらの犠牲は無駄にはせぬぞッ」
リカディの不意の魔法剣に、残された敵騎士たちは怯んだ!!
敵騎士たちの包囲陣の一角が氷塊の墓標と消え、それが結果としてリカディたちの蒼き鉄騎士団の中央突破を許してしまう。
「このまま反包囲して、敵を袋の中に叩き込めッ!! 次はさらに強烈な一撃を見舞ってくれるわッ!!!」
――恐慌する百余名の敵騎士たちは、僅か十数名のリカディたちに瞬く間に包囲された。
彼らの不幸は、リカディが大陸屈指の実力を持つ魔法剣の使い手であることを知り得なかった事。
――それにバーハルト率いる第十六鉄騎団が、かつての苛烈王との戦いで、捨て駒として最前線送りにされ、それによって数を十分の一に減らしつつも生き残った者たちによって構成された、筋金入りのエリート戦闘集団である事の二つであった。
第十六という、騎士団にしては三軍以下の下位な番号とそれを示す蒼い鉄仮面に加え、明らかな数の上の劣性を侮った敵騎士たちは、いわば窮鼠に噛まれる状態に陥って初めて、それを悟ったのだった。
……実はその正体が、ただの鼠などではなく高潔なる王女を守護する獰猛な番犬(ケルベロス)であったのだと。
「第八王女とはいえ、このリカディには貴様等の恐れ敬うウィルハルト聖剣王の血が流れておるのだ。……ウィルハルトの悪夢、その身を以て味わうがよいッ!!」
……村を襲うもう一方の敵騎士たちは、まさか五倍を超える味方が、村の外で窮地に陥っていることなど、この時点では知る由もなかった。