序章 天使- D A R K F O R C E S -
By.Hikaru Inoue
眩き光……、
そう、それは全てのものが白く輝いて見えるほどの眩き光の中。
そこに、一人の少女らしき姿があった。
漠然として、霧のようにも見えるその姿だが、徐々に輪郭がはっきりしてくる。髪は長く腰の辺りにまで達し、胸は微かにだが膨らんでいるのがわかる。
白く発光して見えるその少女は、白き大地に膝を折り、白き虚空を見上げてこう祈った。
「神様……私、私どうすれば、いいのですか!? 私、わからない……どうすればいいのかわからない……」
その声の澄んだ佳音は、まさしく少女のものだった。
すると、弱々しく肩を震わすその少女の祈りに答えるかのように、白き虚空に六つの発光体が姿を見せる。
陰影でしか物を認識出来ないこの白い空間に、初めて現われた白以外の六つの光。
その一つは、この空間と同じ白い発光体だったが、その強烈な閃光は、明らかにこの白い空間と区別出来た。
他の発光体はそれぞれ、緑、赤、蒼、黄、の色を放ち、最後の一つは黒い、闇色の光を放っていた。
闇色の光……、表現的にはおかしくも聞こえるが、この白い空間の中ではその闇色でさえ、輝くように見えた。
そして、その六つの発光体は同時に、少女にこう語りかける。
「我らは、六極神……」
次に、白い発光体がこう言った。
「我が名は、光の神エルス。――我ら六極の神々は、世界に秩序を望んでいる」
続いて、緑の発光体が言う。
「我が名は、地の神マーリス。――二つの翼を持つ者よ、その翼は我らとの契約の証」
そう、少女の背中には、二つの異なる翼が生えていた。
右肩に生える翼は、柔らかな羽毛に覆われた鳥のような翼で、左肩に生えるもう一方の翼は、コウモリの翼ような異形をしている。
背中に生える二つの翼に気付いた少女は、驚くようにこう言った。
「翼が、……翼が生えてる。――そんな、」
戸惑う少女に、赤い発光体は言う。
「我が名は、火の神ラファス。――翼は、我らが使徒の証」
次いで、蒼い発光体がこう続けた。
「我が名は、水の神ファリス。――翼は、無限の力、我ら六極の神々の力」
……少女が両腕を抱えて蹲る。
その蒼い発光体の言葉と同時に、両翼を介して未知の力が少女の体内に流れこんできたのだ。
それは、莫大な、無限にも思える神々の力。
蹲る少女に向かって、黄色い発光体は言う。
「我が名は、風の神クレリス。――翼は、大地と天空を結ぶ」
そして、最後に闇色の発光体はこう言った。
「我が名は、闇の神ヴァルス。――降臨せよ、我ら六極の神々の使徒よ」
こうして六つの発光体は、この白き世界から消え去った。
そこに、少女一人を残して……。
「……もう、何も失いたくはないの。神様……お願い、力なんていらない……、――ワタシ…ヲ、タス…ケ……テ……」
天使は降臨する。
神々を名乗るものたちの意志を、地上に溢れかえる人間どもに伝える代弁者として。
― 幻想の大地 エグラード ―
太古の昔より、そう人々に呼称される大地に今、審判は下されようとしていた……。