序章   樹海の邂逅

   Written By M a k a . K a z a m i





V


普段使わないノイオンの脳細胞が、フル回転で回り始める。
その処理能力はお世辞にも優れているとは言えなかったものの、そのあまりの必死さに神が同情でもしてくれたものだろうか。ノイオンの頭に、ひとつの名案が浮かび上がった。
ノイオンは大きく腕を振り上げると、思い切り前方に向かって伸ばした。
「ほ、ほら、あれを見ろ!!」
少女はおずおずと顔を上げると、ノイオンの指した方角へと目をやる。
その腕の先、樹々の間に、すっかり色褪せた灰色の塔が覗いていた。鬱蒼と茂る樹木の波のせいでその距離はよく分からないが、気が遠くなるほど遠いわけでも無さそうだ。
「あれこそは世に名だたる魔物の巣窟、バルフェイクの塔!あそこに眠る秘宝ウォー・カイモの剣を目指し、今まで欲深い王の軍隊や、数々の功績をあげた勇士たちが挑んだが、帰ってきたものはただの一人もいなかった……!」
芝居がかった口調で演説するノイオン。
ちなみに、説明するまでもなく彼の言葉はほとんど口からの出任せだ。その塔が元々この森を住処としていた民族が見張り台として立てた物である事ぐらいは、彼でさえも知っていた。当然、秘宝などあるはずもない。廃棄されてからかなり経っているから、魔物の巣窟になっていたとしても確かに不思議は無いのだが。しかし、この際そんなことはどうでも良いのだ。
「俺が今から向かうのは、何を隠そうあの塔だ。当然、帰る宛てなど無い!俺は、俺の実力を試すため、はるばる樹海に潜り、ここまでやって来たんだ!!あの塔に挑む、ただそれだけのためにっ!!」
ぐぐっと拳を握りしめて宣言すると、ノイオンはすまなそうに少女を振り返った。残念そうに重々しく首を振ると、しかし強い口調で語りかける。
「と言う訳で、とても君みたいな女の子を連れて行くわけには行かないんだな。分かってくれるね」
「わたしは、構いませんよ」
にっこりと、少女。予想していなかった展開に、ノイオンは慌てて付け加える。
「あ、危ないぞ危険だぞっ、俺についてきたら、命を落とすかも知れないんだぞっ!」
「構いませんよ」
「はっきし言って俺は俺が生きることに精一杯だから、とてもあんたの面倒までは見切れないぞ!」
「承知してます」
少女は思いきり頷くと、ノイオンの手を取った。
「さあ、行きましょう!ええと……その……」
……万策が尽きた。とは言え、もともと策はたった一つしか無かったのではあるが。
完全に観念したノイオンは、がっくりと肩を落とし、やけっぱちになって喚いた。
「……バルフェイクの塔、だっ!」


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